先輩インタビュー
業務の割合は獣医療4割、
コンサルティング6割
熊本県で株式会社ESACを設立し、開業医として鶏を対象にした獣医療を行っています。現在の業務は往診中心で、西日本の養鶏場を飛び回る日々です。北は茨城県、南は鹿児島県までの往診先がメインになります。規模としては、4000羽から120万羽の農場まで、実にさまざまです。最近は、養鶏の経営改善や鳥インフルエンザなど感染症予防に関する講演を頼まれることも増えています。
仕事内容としては、鶏の病気の診断・検査・分析といった獣医療が全体の約4割、残りの約6割は生産性向上のためのコンサルティング業務になります。例えば、産卵率向上や卵質改善を目的とした飼料や飼育方法のアドバイスをします。30万羽規模の養鶏場で産卵率を1%上げることができれば、毎日3000個の鶏卵が増えるわけです。
鶏の医療の面白さは、犬猫臨床のように1匹ずつ治療するのではなく、1万羽、2万羽という「群」で管理する点にあります。疾病が発生したら、速やかに解剖し、原因を調べて蔓延を防ぎます。現在、日本国内では採卵鶏(レイヤー)が約1億4000万羽飼育されており、肉用鶏(ブロイラー)は年間約7億5000万羽処理・出荷されています。その健康管理を任されることで、10億という命を守れる点がこの仕事の大きなやりがいだと思っています。
疾病の蔓延を防止するために
1日1件の往診が基本
私の1日は早朝から始まります。遠方の農場への往診が多いため、朝5時には自宅を出発し、片道3時間ほどかけて農場に向かうこともあります。農場での往診を昼頃まで行い、その後、診療所に戻ってカルテ(活動報告書)を作成してクライアントにメール送信します。養鶏場は、感染症対策の厳しいルールがあるため、1日1軒の往診が基本ですが、先方の都合次第では、2軒回ることもあります。衛生管理のため、農場間の移動の際には、必ず入浴して体を清潔にします。緊急の病性鑑定依頼があれば予定を調整して対応することもあります。
この仕事のやりがいは、月並みかもしれませんが、生産者の皆さんに喜んでもらえることです。個人的には、日本の「食」を守りたいという強い思いもあります。抗生物質を使わず、ワクチンで感染症を制御するなど、食の安全を意識した独自の指導もしています。
養鶏所でのワクチン接種の様子
獣医学部に進学後、
微生物学の面白さを発見
私が獣医師を志すようになったのは幼稚園の頃です。当時、実家で飼っていた猫が尿道結石になり、父の友人である獣医師に助けてもらったことをきっかけに、憧れるようになりました。中学・高校で獣医学部に進学することの並外れた難しさに気づきましたが、なんとか奮起して、1浪で北里大学獣医畜産学部獣医学科に進学しました。
ここで私は、犬猫の臨床よりも微生物学に強く惹かれていきます。4年次に人獣共通感染症学研究室へ入り、鶏を対象にしたサルモネラ菌やカンピロバクター菌の研究を進めたことで、「鶏の世界」に深く入り込むきっかけが生まれました。
そして、卒業後も鶏の研究を続けたいと考え、熊本県にある財団法人化学及血清療法研究所(化血研)に研究員として入所しました。その後、2009年に動物臨床検査室に配属され、抗体検査やウイルス分離、病気の診断などを担当しました。そこで臨床現場の楽しさを発見し、1万羽、2万羽といった大規模な群れを管理することにやりがいを感じるようになっていきます。このときのネットワークを活かして、2016年に独立し、現在に至ります。
鶏専門の獣医師は、
若手にとって大きなチャンス
鶏専門の獣医師は、全国で30人もいないと思います。また、その多くは高齢化しているため、若手獣医師にとって大きなチャンスのある分野だと思います。現在、法律で養鶏場は獣医師を置くことが義務付けられていますが、鶏専門獣医師が少ないため、専門外の獣医師が担当しているケースも多いようです。
私は鶏専門獣医師を育成したいと考えており、現在は若手獣医師を直接雇用しています。この仕事は、クライアントが定着すれば、年収1000万円も夢ではありません。将来的には全国各地に鶏専門獣医師を配置し、日本の養鶏業界を支えていきたいという展望を持っています。
獣医師の仕事は、犬猫の臨床だけでなく、「食」の安全を守る重要な役割もあります。例えば、食鳥処理場では獣医師の確認がなければ鶏肉を出荷できないなど、食品衛生に関わる仕事も多いです。獣医師と生産者の連携によって、日本の食卓に安全な肉や卵、牛乳が届けられていることをぜひ知ってほしいですね。また、獣医師の免許を持つことで、処方箋の発行など一般の社会人にはできない業務を行うことができます。獣医師だからこそできる、「食」のトータルコンサルティングに興味のある若者を増やしていきたいと思っています。
株式会社ESAC代表取締役
1981年、神奈川県生まれ
北里大学獣医畜産学部獣医学科
2007年3月卒業
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先輩インタビュー
獣医学系学部・学科を卒業し、産業動物獣医師や農林水産系公務員獣医師として働く先輩たちは、どのような仕事をしているのでしょう? 具体的な業務内容や1日のスケジュールを取材しました!