こんなに広い!
獣医師の活動分野
家畜の健康を守る 産業動物診療獣医師
牛乳、肉、卵といった畜産物は、私たちの日々の食生活に欠かせません。これらを生み出している牛・豚・鶏など家畜の健康を守ることも獣医師の重要な仕事です。
産業動物診療獣医師とは?
病気の予防・診療から繁殖の指導も
乳牛、肉牛、競走馬、豚、鶏などの家畜を対象とした獣医療に従事するのが産業動物診療獣医師です。家畜の病気の予防・診療、飼育管理、衛生管理のほか、繁殖の指導なども行います。人工授精や受精卵移植など、家畜の改良増殖も産業動物診療獣医師の重要な仕事です。
主な勤務先は、各都道府県にある農業共済組合(NOSAI)や産業動物診療施設。さらに競走馬育成牧場、水産試験場や水産動物養殖場で活躍している獣医師もいます。
安心・安全な畜産物生産の流れ
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1
生産
牛・豚・鶏などの家畜を飼育し、肉・乳・卵などを生産する工程。飼料の給与、衛生管理、繁殖管理などを行う。
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2
と畜・解体・加工
生産された家畜や生乳などを食肉や乳製品、ハム・ソーセージなどに加工する工程。と畜・解体作業もここで行う。
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3
流通
加工した畜産物を消費者へ届ける輸送、保管、販売を行う工程。市場から仲卸業者、小売店に製品が供給される。
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4
消費
消費者が畜産物を購入し、調理して食べる段階。生産地や生産工程をできる限り可視化して、安全・安心を届ける。
このような場面でも! 産業動物診療獣医師の活躍の場
産業動物診療獣医師の仕事場は、酪農場や養豚場、養鶏場だけではありません。競走馬育成牧場や水産動物の養殖場まで活躍の場はますます広がっています!
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酪農場
ホルスタインに代表される乳牛を飼育し、牛乳(生乳)や乳製品を生産する農場です。獣医師は、乳房炎などの疾病の予防や治療、繁殖管理、衛生管理のほか、生産性向上のための指導も行います。
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肉用牛農場
肉用牛を飼育し、牛肉を生産する農場。主に黒毛和種、褐毛和種、日本短角種、無角和種の和牛4品種を飼育しています。獣医師は疾病の予防や治療、繁殖管理のほか、飼料や肥育に関するアドバイスなどを行います。
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養豚場
食肉用の豚を飼育する農場です。最近は豚舎を分けて、繁殖、子豚の育成、肥育を行うのが一般的です。獣医師の主な仕事は防疫や衛生管理の指導。疾病の治療より、豚が健康に育つ環境整備に力点が置かれています。
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養鶏場
卵を生産する「採卵鶏農場」と、鶏肉を生産する「肉用鶏農場」に大別されます。獣医師は主に鳥インフルエンザなどの感染症対策、衛生管理の指導などを行っています。
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競走馬育成牧場
生まれた子馬を競走馬としてデビューさせるためのトレーニング(育成)を行う専門の牧場。獣医師は、競走馬の日々の健康管理、病気やケガの診断・治療、繁殖管理、育成・調教のサポート業務などを行います。
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水産動物養殖場
魚や貝などの魚介類を人工的に飼育する場所です。海面ではいけすや網、陸上では水槽を使って、ブリ、タイ、マスなどを育てています。獣医師はここでも養殖する水産動物の健康管理、衛生管理などを行っています。
産業動物獣医師の
1日
産業動物診療獣医師の主な就職先である農業共済組合(NOSAI)に勤務する先輩の1日はどうなっているのでしょう? NOSAIの診療所に勤務する先輩の仕事に密着しました。
千葉県農業共済組合
北部家畜診療所 技師
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8:15
出勤
始業は8時15分から。出勤したらNOSAIのユニフォーム(作業着)に着替えて、診療に備えます。
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8:30
電話受付
電話やEメールで届いた当日の診療依頼を確認します。産業動物診療は往診が基本なので、職場内の獣医師同士で、担当を割り振ります。
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9:30
診療所出発
NOSAIの車で往診先の農場に向かいます。片道30分から1時間かかることもあります。産業動物診療獣医師として働く場合、普通自動車免許は必須です。
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10:00
午前診療1件目
午前中の1件目は繁殖検診。農場で飼養している乳牛60頭の妊娠鑑定や出産後の検診などを行います。畜産農家さんと1頭ずつの細かい情報共有が重要になります。
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11:30
午前診療2件目
午前中の2件目は、不調を抱える肉牛に対してビタミン剤や抗生物質で治療する仕事。午前中だけで3〜5件の畜産農家をまわることもあります。
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12:30
採取した乳汁の検査
乳房炎にかかっている牛から採取した乳汁を培養して、細菌感染の有無を調べる検査も獣医師が行います。検査を専門的に行う職員が担当する場合もあります。
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13:00
ランチタイム
午前診療がひと段落したらランチタイム。休憩も含め、ゆっくり1時間を過ごします。
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14:00
午後診療
午後は、産後の乳牛が立てなくなったと緊急の呼び出しが! 初めて出産を経験した乳牛が出産時に産道を痛めた模様。点滴をして、体力の回復を待ちます。
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15:30
カルテ入力などの事務処理
午後診療が終わったら、診療所に戻ってカルテ入力などの事務処理に取りかかります。各農家で飼養している牛は番号で管理されており、診療カルテ入力は獣医師の責務のひとつです。
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17:00
翌日再診予定の引き継ぎ
終業は17時。翌日の再診予定の引き継ぎなどを行って、業務完了。難産などの緊急呼び出しがあれば、夜間当番の獣医師が対応します。
ますます広がる
産業動物診療獣医師の
役割
千葉県農業共済組合
北部家畜診療所 主任技師
個体診療から農場全体の管理へ
これまでの動物の病気を治療する仕事に加え、疾病予防、繁殖管理、栄養設計、そして農場全体の効率化を包括的に支援する新しい獣医療の形が求められています。乳牛、肉牛、豚などにおいても農場全体の収益を上げる農場コンサルティングに取り組む産業動物診療獣医師が増えています。
養豚場管理は
疾病を出さないのが基本
私は豚の診療を担当していますが、いまは一部の治療は、獣医師の指示のもと、農場が行うので、注射器も聴診器も持たずに往診に行くのが基本です。現場では、豚たちが健康に過ごせるよう、豚熱などの感染症を出さないための管理手法、エサなどのコストを抑えながら、効率よく発育してもらう方法などをオーナーと話し合います。死んだ豚が出れば、現場に駆けつけて病理解剖し、検体を持ち帰って診療所で検査します。原則は農場で疾病を出さないこと。万が一、疾病が発生してしまった場合は、いかに被害を少なく食い止めるかが獣医師の仕事になっています。
千葉県農業共済組合
北部家畜診療所 主任技師
生 産 者 の 声
「新人の先生は
息子や娘みたいなもんです」
千葉県匝瑳市
鈴木牧場オーナー
千葉県匝瑳市
鈴木牧場オーナー
「新人の先生は
息子や娘みたいなもんです」
60頭の乳牛を対象に
毎月2回の繁殖検診を実施
千葉県匝瑳市で約60頭の乳牛を飼育しています。人工授精を行い、60頭がそれぞれ年1回ずつ妊娠、出産をするサイクルを回しています。
NOSAI千葉の先生に毎月2回の繁殖検診をお願いしています。妊娠鑑定は自分でもできますが、ひとりでは一気に診られないので、まとめてお願いできるのは助かります。エコー(超音波)など最新機器も使用して、60頭のデータをすべて把握してくれている強い味方です。
繁殖検診では、出産時の子宮の回復具合を診てもらったり、発情がわかりにくい牛の発情予定を予測してもらったりしています。また、分娩前後や生まれたばかりの子牛は病気にかかりやすく、診療してもらうこともあります。
これまで多くの新人の先生が、ここで診療をしながら成長していきました。大学を卒業したばかりの先生は、自分の息子か娘みたいなもんだと思って付き合っています。よきビジネスパートナーとして、これからも頼りにしています。
乳牛の個体番号を確認しながら検診を進める
検診後は個体ごとの情報を確認