先輩インタビュー
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養豚農場を対象にしたコンサルティングを行う
福岡県で養豚農場を対象にした養豚コンサルティングを行っています。現在は、株式会社フロントサークルを設立し、九州7県と沖縄県にある計60農場と契約を結んで、主に繁殖管理(※1)や感染症予防、飼養管理(※2)にかかわるアドバイスをしています。月1回の定期訪問を実施し、直接農場に入って課題を明確化し、その対策を立案・実施し、結果や経過を翌月の訪問で確認していく——この繰り返しが仕事の柱になります。

具体的には、農場で豚に何が起きているのかを検査で明らかにし、この病気ならこの薬を、場合によってはこのワクチンをといった提案をします。さらに、豚舎の環境管理から、従業員向けの勉強会(教育)、飼養管理の提案まで総合的に手がけています。
この仕事で重要になるのが、最適な「ピッグフロー(※3)」の提案です。これは、農場における「豚の流れ」を考える仕事になります。例えば、ある農場に母豚が100頭いても一気に種付け(繁殖)はできません。全頭同時に種付けをすれば、子豚が一度に1000頭以上生まれて手に負えなくなるからです。そこで「群」をいくつかに分けて、繁殖を管理します。その分け方次第で、豚舎の収容能力や配置も変わってきます。その農場に最適な「ピッグフロー」を実現できれば、獣医師が本来やるべき疾病のコントロールもしやすくなります。薬で病気を治すのではなく、そもそも病気になりにくい環境をつくる——そこが養豚獣医療のユニークな点だと思っています。

※1:繁殖管理/母豚(繁殖用雌豚)の発情や交配、妊娠、分娩などを管理し、計画的かつ安定的に子豚を生産すること
※2:飼養管理/豚の健康と生産性を保つため、飼料や健康状態、豚舎環境などを適切に管理すること
※3:ピッグフロー/繁殖から出荷まで、豚が各飼育ステージを移動していく流れ
すべてを数値で語れることが
養豚獣医療の魅力
あらゆることを数値で明らかにできる点も養豚獣医療の面白さです。毎月の種付けから何頭がお産をしたかを示す「分娩率」、母豚1頭が一度に何頭産んだかを示す「産子数」、そのうち何頭が無事に離乳できたかを示す「離乳頭数」、出荷までに何キロの餌で何日かかったか、途中でどれだけ死んでしまったか……。こうした生産の指標をすべて数字で把握できます。さらに、豚舎ごとの温度・湿度・二酸化炭素濃度といった環境の数値も合わせて見ながら、いまの飼養管理が本当によいのか、どこに追加投資すべきかをクライアントにアドバイスします。
1頭1頭の豚を無視するわけではありませんが、私たちの仕事はあくまでも「群管理(※4)」です。群全体のパフォーマンスを上げるために、第三者の目線で農場を客観的に評価する。現場はこういう状況で、こういう数値だったものが、この対策でここまで回復した——と根拠をもって示せることで、より正確なアドバイスができます。かつては、「先輩獣医師の背中を見て覚えろ」という世界もありましたが、現在は科学的な数値によって、次世代の獣医師にわかりやすく知識を伝えられる。これも養豚獣医療ならではの魅力だと思います。
1回の出産で母豚は12〜18匹の子豚を産むこの仕事のやりがいは、生産者さんの悩みを解決して喜んでもらえること。これに尽きます。「豚肉の質がよくなった」「分娩率が上がった」「出荷頭数が増えた』と言っていただけると、この仕事を選んでよかったと心から思います。もちろん、おいしい豚肉を食卓に届けるお手伝いをできている手応えも感じることができます。豚は言葉を話してくれません。だからこそ、豚が何を求めているのか考えるのも獣医師の仕事です。まるで謎を解き明かすような思考のプロセスもこの仕事の面白さだと個人的には思っています。
※4:群管理/個体ではなく、群としてまとめて管理する手法。成長段階や繁殖サイクルが近い豚をグループ化し、飼育や繁殖、豚舎の移動などを管理する。
福岡県への転勤で出会った
養豚獣医療の世界
獣医師を目指したきっかけは、幼い頃から動物が好きだったからです。テレビでムツゴロウさんの番組を見て、動物に囲まれる仕事っていいなと思っていました。動物好きがそのまま「動物のお医者さん」につながったという感じですね。受験では一浪して、北里大学獣医畜産学部(当時)に進学し、当初は犬や猫などの小動物臨床を志しました。ところが実習を重ねるうちに、犬猫の臨床は自分のやりたいことと少し違うと考えるように……。そんなとき、当時所属していた研究室で、疾病の治療につながる基礎研究分野を知り、微生物分野の仕事に興味を持ちました。微小な細菌と向き合う、細かい作業が性に合っていたのです。

卒業後は、全国農業協同組合連合会(JA全農)に就職し、千葉県にある全農クリニックセンターで、血清抗体検査管理業務を担当しました。ところが、わずか1年後に福岡県へと転勤となり、全農福岡畜産生産事業所に配属となりました。その福岡で、農場でのサンプリング(採血)、検査結果のフィードバックなどの仕事を通じて、養豚獣医療を知ることになります。福岡県での4年間で、すっかり養豚が面白くなり、農場を経営するJA全農の関連会社へ出向を志願します。そこでは、管理獣医師として生産数値管理や経営計画の立案・進捗管理などに携わりました。3年間の出向を終え、再びJA全農に戻ってからは、養豚農家への生産指導を2年間担当し、沖縄にも通いました。そして「この仕事を続けたい」という思いから独立し、現在は福岡県で開業して10年目になります。私はもともと飽きっぽい性格なのですが、養豚農場は行くたびに新しい発見があって、まったく飽きることがありません。養豚との出合いは、人生最大の転機だったと思っています。
九州・沖縄の養豚を支え次世代へつなぐ
九州・沖縄にも養豚に携わる獣医師はいますが、生産者の数に対して絶対数が足りていません。適切な養豚獣医療を受けられている農場は、まだまだ少ないのが実情です。コンサルティングにお金を払うことに抵抗を感じる生産者も多いのですが、生産効率が上がり、利益が出れば、必ず納得してもらえると思っています。

私の目標は、自分を育ててくれたこの地域で、適切な養豚獣医療を持続的に提供する体制を作ることです。そのためには、養豚獣医療に携わる獣医師とのネットワークづくりが不可欠と考えています。多くの開業獣医師が所属する日本養豚開業獣医師協会(JASV/※5)、疾病コントロール技術を議論する日本豚病臨床研究会(※6)など、仲間の獣医師ともネットワークを組み、この地域の養豚産業を維持し、さらに発展させていきたいと考えています。
生き物が生き物を産み、生き物が育てる——。この本質は、技術がどれだけ進化しても変わりません。私たち獣医師にできるのは、豚にとって快適な環境づくりをサポートすることです。養豚専門の獣医師は、病気の治療や感染症予防のことを知っているだけでは務まりません。環境、経営、人材育成など本当にいろいろなことを学び続ける必要があります。大変だからこそ、興味は尽きません。伴侶動物とは違う「産業動物」と向き合うこの仕事に、少しでも興味を持つ次世代の若者が増えてくれたら、これほどうれしいことはありません。
契約農家の雷山イデア牧場 井手剛寛社長と※5:一般社団法人 日本養豚開業獣医師協会/養豚農場の診療や生産・衛生管理のコンサルティングに携わる獣医師を中心に構成される専門団体。通称JASV(The Japanese Association of Swine Veterinarians)。
※6:日本豚病臨床研究会/養豚現場における豚の疾病や臨床上の課題について、獣医師らが情報交換や研究を行う専門団体。

株式会社フロントサークル 代表取締役
1981年、千葉県生まれ
北里大学獣医畜産学部獣医学科
2007年3月卒業
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先輩インタビュー
獣医学系学部・学科を卒業し、産業動物獣医師や農林水産系公務員獣医師として働く先輩たちは、どのような仕事をしているのでしょう? 具体的な業務内容や1日のスケジュールを取材しました!